鳴いたトライアングル

恋など無駄だと決めつけた逞しい気持ちが先走り過ぎ、

誰よりも攻めた速度で突っ込んだ季節の曲がり角で、

憧れるほどの朗らかな人にぶつかりそうになって何とか避けた先には、

見とれるほどの麗しい人が歩いていた

 

その麗しい人にもぶつかりそうになって倒れながらも何とか避けたが、

結局、太陽のように朗らかな人と、月のように麗しい人に、

両脇を抱え起こされて恋が始まるなら、

運命のイタズラとして受け入れるしかない

 

しかし、朗らかな太陽も麗しの月も美しすぎて、

才能といった羽の無い凡人には手が届かなかった

ああ、きっとそう思いたかったのだと思う

 

太陽と月と凡人の距離は測らなくても均等なトライアングルで、

叩いて壊せばきっと素晴らしい音がしたはずたが、

トライアングルは独りでずっと鳴いていた、

叩かれるのを待って鳴いていた

 

朗らかな太陽の光りも浴びず、麗しの月に恋の歌をうたわず、

どちらにも背けずにどちらにも近づけなかった情けない心は、

どちらの空を吹く風にも成れずに

夕暮れの間に間にずっと逃げて生きようとした

 

そして、恋の季節が過ぎる頃、

月よりも太陽よりも大きな穴が胸にぽっかりと空いていた

 

終わったからでも壊したからでもない、

何もしなかったから胸からどちらもが無くなったのだ、

トライアングルももう居ないのだ

 

まだ気持ちも若かったから傷は大きく、幾晩も痛みに嘆いたが、

歳を重ね、過ぎた季節を見つめることが出来るようになると、

あの思い出が味わいとなり痛みがほろほろ甘くなる、

鳴いていたトライアングルを思うとやるせない気分になる

 

あの恋の季節を見つめ

何とも言えない甘さの悲喜劇を回想して何度でも楽しめるなら、

恋が無駄でもいいし、

無駄に歳を取るのも悪くはない