Mr.チャック

俺がドアを出ていく時、あんたは「チュッ」てして「チェッ」って言ったけど、

帰って来たときは「ギュッ」てして「ニッ」て笑った。

 

その日のお空はラブロマ映画のオープニングみたいに晴れていて、

ラジオはいつも通り、聞いたことがない歌手の歌を聞かせてくれた。

コーヒーもサンドイッチもあるし、信号は青だ。

申し分ない一日の始まりだし、英語の教科書の冒頭みたいに清々しい

シンプルでストレート、グッドモーニング・エブリワン!が頭で大合唱されている

 

でも、このパーフェクト加減が腑に落ちない、

今にもゾンビが襲ってきそうなフラグが立っている気がする

 

ああ、もっと早く気付くべきだったんだよベイビー、

誰かがさっきまで履いていたスリッパみたいに、

この日のあんたの笑顔は嫌な予感がしたんだ。

 

「ただいまベイビー」の後、珍しく誘ってくるあんたに、

イチャイチャしながらズボンを脱ごうとした時、

Mr.チャックという社会の門番が下がったままなのに気付いた俺は、

今日という日に出会った人々の不審不審した顔にやっと合点がいった。

 

俺は負けず嫌いだから、そのままイチャイチャバトルを続けようとしたけど、

あんたのバカ笑いには勝てなかったから

「不在の門番の代わりに、俺の息子が世の中を見張ってるよベイビー」

って負け惜しみを言ったら、

あんたに「ドン」ってされて「バチン」って打たれた。