乗れなかった地下鉄
ホームに滑り込んで来る地下鉄の熱気が、
寒気で張った肩の張りを緩めてくれる、こんな季節には。
ベイビー、あんたが突っついた頬が痛くなる。
あれはいつだった?
二人で遊びに行ってあまりの楽しさと疲労で、
幸せに寄りかかって寝た俺の頬を大好きだった指が突っついた。
今でもあの感触が不意にやって来て、痛みに変わっていく。
あれはいつだった?
クリスマス前だったから、これから1ヶ月先か?
過去のことなのに、1ヶ月先だなんてメランコリックな矛盾で、
また思い出迷子だ。
あれからずっと。
大勢が揺られて運ばれる独特な雰囲気と、
停車の度に流れ込んでくる駅の匂いと、
話し声を消してしまうエンジン音で
今でも戻れそうな気がするんだ。
ああ、ベイビー、あんたが俺と一緒にいた時よりも、
今、誰かの横でいい顔して笑っていたら、
正直、悔しい気持ちがあるけれど
それを望んでもいるんだよ。
どうか、俺のように冷たい風が身に沁みるような生活を、
決して送っていませんように、って祈るんだ。
ああ、そうか。
俺はまたあの時の地下鉄に乗れなかったんだな。