ベガスの夜

この風はどこから吹いて来るのだろう

 

いつだったかあんたの前で、そんな風に遠い目でカッコつけて、

カッコ悪くて恥ずかしいから忘れたはずなのに、

飛行機雲を消そうとしている風や、

温水便座の温風に当たって直ぐに浮かび上がるほど、

心につけた焼き印は消せそうにない

 

夜の水族館ってイベントもりもりのやつに行って、

ずっと付かず離れずの距離を保つような謙虚な面があったり、

ちゃんと観るってことを楽しめる芯の良さがあったり、

生ぬるい風が吹く夜だったけど、

あの日、あんたをちゃんと好きになって良かった

 

って、忘れることのない思い出は、

それ以外にも沢山あるんだ

 

あぁ、この風は過去から吹いて来るんだろう

 

眠たいのか疲れているのか分からない顔で

「一年後、五年後、十年後、何をしているんだろうね」

って呟きに

「一年後には結婚して、五年後には子供がいて、十年後には家族八人でベガスに旅行だよ」

って当たり前に答えた

二人なら何でも出来ると思った

 

あぁ、この風は未来から吹いて来るんだろう

 

そうだ、風は感じるもので、なるものじゃない

幾千もの風になってお空を吹きわたったところで、

俺の大切な過去よりも、二人でいるはずの未来よりも、

あんたがいるのに相応しい場所なんてないだろう?

 

今でも、あんたにカッコつけて、

どうでもいいようなことを大切にしている自分が、

風より雲より頼りない

 

それに、あんたがいないのに来たベガスなんて、

意味が無さすぎて泣けてくる

 

ギャンブルのないベガスの夜を吹き抜ける風が、

約束だけを思い出させて身に沁みる

 

あぁ、この風はどこから吹いて来るのだろう