穴なしドーナツ
いつか作ってくれた、穴を忘れたドーナツは、
笑いと意外な美味しさと、
予定のない休日を盛り上げたアクセントとして、
二人のアルバムを飾っている。
不揃いな大きさの揚げたてドーナツを、
シロップやチョコソースや砂糖で待ち構え、
まぶしては噛み付き、一口ずつ確かめながら
「上手い、上手い」って食べたっけ。
あぁ、「もう一回食べたい」なんて、言葉にしたら、
もう二度と食べられない現実に打ちのめされそうで、
言葉に出来ない。
あれからどこで買っても、
どうやってもドーナツには穴が開いてるんだ。
俺の心と一緒で真ん中にポッカリ穴が開いていて、
回りは楽しかった思い出や、
忘れられないやり取りが焦げ付いてる。
せめて、その穴から向こうに、
慣れ親しんだ帰らぬ姿が見えたなら、
喜びで揚げたての言葉や涙で穴なんて埋められるのに、
そこにはただただ熱を奪う悲しい風が吹くだけなんだ。
あぁ、ベイビー、いつか会えたなら
穴無しドーナツを作ったシェフを呼んでくれないか?
「楽しかった。ありがとう」って、
ちゃんと本人に伝えて、二人の心の穴を埋めたいんだ。