アダムスファミリーのサイン
だから、神様、あの娘を返してくれ
あんたにとっちゃあ料理も頭もダメで、
軟式テニスもできない無価値な女かもしれないけど、
俺にとっちゃあ、料理を頭もダメだけど、
軟式テニスのやってられなさを一緒に愚痴られる
そりゃあイイトコなんて顔くらいしか無いけど、
意地の悪さは見習いたいほどだし、
お店へのクレームなんて一手に引き受けてくれる、
頼りになる敏腕クレーマーなんだぜ?
じゃあなんで手放したんだ?
なんて野暮な神託は、失われたアトランティスの方に贈ってくれよ
あの娘に貸した俺のお気に入りのピーナッツバターのビンを、
返した、もらってないのやり取りから、
信頼関係がフジヤマ山頂の空気くらいどんどん希薄になって、
次の季節を迎える前に、
互いの空気を読むのも嫌になって霞のように消えていった
そして、さっき。
部屋の整理をしてたらオシャレだって二人で決めて
壁と間を開けていたタンスの裏から、
あの娘が返したっていっていたビンがでてきたから、
涙が出るほど笑って、そのまま号泣してたんだ
こんなことがあるかよ畜生。
結局、どっちも正しくて、どっちも間違ってた
純金で出来たカツラだろうが、紙幣で出来たロンティーだろうが、
所詮は物じゃないか
大切な人と築いた信頼関係より、
物が無くなったかもしれないって疑いを優先させたことが、
いつもはフジヤマよりも大きいって思ってる、
自分の心の小ささを痛いほど詰められてる
一緒にいてくだらない話をして笑い、
話さなくたっても一緒にいられるひとより、
大切なものがあるものか
あぁ、だから神様。
欲しいならカツラもブラッシングしたての犬の毛で作るし、
アダムス・ファミリーのサイン入りロンティーもあげるから。
どうか、どうか、あの娘を返してくれ
そしたら、あの娘からあんたに痛恨のクレーム入れてもらうから