シャーマンロック

 

大体の飲み屋で繰り広げられるのは、

下克上の口約束、栄枯盛衰の小話、因果応報の進捗報告だ。

 

あれはオジサンとお姉さんが集まった様式美を兼ね備えてる儀式で、

経済に貢献した労働の悲しみを昇華する魔術なんだ。

 

だから、あのお姉さんはホステスというよりシャーマンなんだ。

 

話し方も訓練されていて、くねくねと動き、

「私も何か頼んでいい?」って断れない社交辞令を挟んでから、

ボーイという従者に指示を出して、来客の疲れを癒してくれる。

 

変な形のライターを出す速度も、

来た時から点いていたんじゃないか?と思うほど早い。

(俺でなきゃ見逃しちゃうね)

 

ここじゃ大人になることの自由と、

泣いても許されなくなる悲しみを、

盛者必衰トークに合わせて自虐のリズムで盛り上がるんだ。

 

そうやって、浦島さんちの太郎氏も目じゃないくらいに、

楽しい時間は過ぎていく。

 

これがお気に召さないビジネス侍なんて、

傲れるものも久しからずに去っていくぜ。

 

え?それで、シャーマンって何の意味かって?

シャー!て言う人だよ

そうだね、シャウトだね。ロックなんだ。

 

だから、一晩中ロックで疲れたんだ。

もう寝ていい?

 

 

酔っ払った高級車

 

神様、あなたはなぜそんなにも俺のお願いを聞いてくれないんだ。

 

酔っ払った神父さんが高級車の窓から

「神様はいない!」って叫んでも、

俺には居ることがわかってるんだ。

 

隣の死にそうな年寄り夫婦にロトくじを当ててやっても、

俺のお願いは無視なのか?

 

俺はただ、いつか過去にメッセージが贈れたら、

お前にしちゃあ良くやった方だ、って言ってあげたいだけなのに。

 

あの頃の自分にしちゃあ命を奪う一大事だった、

今からすればミミズのタメ息より大したことのない友達とのイザコザも、

逃げたり立ち向かったりしてそれなりにやっていくんだろうけど。

 

「頑張れよ。お前がやらなきゃ俺はいないんだ。

そうやって未来は作られてるんだ」

って、カッコつけたい。

 

あと、2つだけやり直したい。

 

爺さんと婆さんと俺は最後のお別れだなんて思わなかったから、

普通に「バイバーイ」って帰ったけど、

ちゃんと大好きだって伝えさせて欲しい。

 

ああ、神様、あなたは本当にお願いを叶えてくれないけど、

それはそれでもういいんだ。

 

隣の夫婦はロトくじのせいで死にかけてるのに離婚して、

仲の良かったお隣さんは、

酔っ払いながら別々の高級車に乗っていなくなった。

 

死にかけのゴールまで人生ゲームを進めたのに、

抽選で艱難辛苦ボーナスを与えられるくらいなら、

こっちからお願いは取り下げるよ。

 

俺は俺でこの先を考えたら、

まあ何とかなっていくだろうって感じるし、

今日はママとオヤジにあって、

ちゃんと大好きだって伝えたいような気がするから、

もういいんだ。

 

 

乗れなかった地下鉄

 

ホームに滑り込んで来る地下鉄の熱気が、

寒気で張った肩の張りを緩めてくれる、こんな季節には。

ベイビー、あんたが突っついた頬が痛くなる。

 

あれはいつだった?

 

二人で遊びに行ってあまりの楽しさと疲労で、

幸せに寄りかかって寝た俺の頬を大好きだった指が突っついた。

今でもあの感触が不意にやって来て、痛みに変わっていく。

 

あれはいつだった?

 

クリスマス前だったから、これから1ヶ月先か?

過去のことなのに、1ヶ月先だなんてメランコリックな矛盾で、

また思い出迷子だ。

 

あれからずっと。

 

大勢が揺られて運ばれる独特な雰囲気と、

停車の度に流れ込んでくる駅の匂いと、

話し声を消してしまうエンジン音で

今でも戻れそうな気がするんだ。

 

ああ、ベイビー、あんたが俺と一緒にいた時よりも、

今、誰かの横でいい顔して笑っていたら、

正直、悔しい気持ちがあるけれど

それを望んでもいるんだよ。

 

どうか、俺のように冷たい風が身に沁みるような生活を、

決して送っていませんように、って祈るんだ。

 

ああ、そうか。

俺はまたあの時の地下鉄に乗れなかったんだな。

 

 

希望に満ちた世界

 

俺が神様になれないのは、

世界が終わった次の日に花の種を蒔くような根性が無いからだと思う。

 

ベイビー、俺はこの世界を愛している。

 

しばらくの間あずかって欲しいと言われて、

そのしばらくが年単位で継続中の犬も。

 

あんたが土砂降りの日に連れて帰ってきた、

今じゃあこの部屋の主は自分だと思っている猫も。

 

いつもとても大きな声でポイントカードを作るか聞いてくる

スーパーの好青年も。

 

もちろんそいつらを見る時に一緒にいる、

この世界と肩を並べる偉大な存在の、

あんたのことも愛している。

 

もし、そんな俺の愛する世界が終わって、

一人だけが残ったとか考えたら、

サブイボの包帯で巻かれて、

心も体も身動きが取れなくなる。

 

ノアに乗るラストチャンスが二回あっても、

俺はあんたと最後の審判を最前列で見る方を選ぶよ。

 

でも、実際そんなこと出来る訳ない、いや出来る、

とシーソーゲームしながら、

昨日、アホ猫とアホ犬の喧嘩に巻き込まれて、

グシャグシャになったプランターに、新しい種を蒔きながら、

今日も希望に満ち溢れている世界を満喫しようと誓った。

 

 

夕暮れの影

 

ベイビー、あんたの目に映っている人が俺じゃなかったら、

サヨナラするのに涙を流して追い出すこともなかったのに。

 

俺の横に海と夕暮れしかいないとき、

あのままその瞳の中にいられたら、

どんなに楽しかったろうって、今でも思うよ。

 

あんたは俺に悩みや弱さを見せて、

ちゃんと神様にお願いするように、

朝や夜にすがってくれたらどうなってたんだろうって。

 

俺はあんたを只の友達じゃなく、

大切な友達として真摯に扱い、

どんなに強く抱き締めたって抱き締め足りないことを、

ちゃんと言葉で伝えてたらって。

 

夕暮れに影だけになっている、

仲の良さそうな恋人たちを見ながら、

俺の時間は止まるんだ。

 

ベイビー、今、誰を見てるんだい?

 

その人はきっと、

あんたの目から自分を追い出すことなんて無い、

素晴らしい人であれと願ってる。

 

ベイビー、俺の目の中にいるあんたは、

どれほど涙を流しても、消えることはないんだよ。

 

 

絶対大丈夫だから!

 

ベイビー、あんたが「絶対大丈夫だから!」って

保証付きで見たホラームービーは、

フロ・トイレ別々に出来ないくらい

全然大丈夫じゃなかったんだけど、

この責任は誰が取るんだい?

 

PL法的になら名前のスペルさえ腹が立つ、この映画監督かい?

 

ここで俺がこの前見た夢とPL 法の話しをしよう。

 

この前見た夢は、あんたと映画を見たあとに二人で食事をしたあとに、

また映画を見たあとにって無限ループになったから、

三度寝して食器すら洗えなかったんだ。

 

あれで怒ったお返しが、このホラームービーなら、

夢の中の幸せそうな二人にも謝罪して欲しい。

 

そしてPLのPはもちろんパワーだし、

Lはポテトでお馴染みのサイズに決まってるから、

責任の取り方なんて、

力に任せて思い切りぶん殴るってことだよ。

 

ところで、さっき駅前の屋台で激辛祭りをやっていて、

辛いのが苦手なベイビーでも食べられそうな

ジョロキアの「辛みがおジョロキア」って

ふざけた奴を買ってきたんだ。

 

「絶対大丈夫だから!」

とりあえず食べてごらんよベイビー。

 

 

運命の秘蔵っ子たち

 

俺がイケメンなら、

ベイビーあんたとは出会ってなかっただろうし、

俺が不細工ならそれはそれで出会ってなかった。

 

あれだろベイビー、俺があんたよりもっとバインバインの、

ベルリンの紫陽花みたいな曲線美に出会ったら、

グレートジャーニーみたいにそっちに行ってしまうと思ってるんだろ?

 

しかし、よく考えてみてくれ。

その紫陽花は俺を手に取って裏返して、

どこ生産か確認したら、お試しで匂いも味も利いてみるだろう。

 

そしたらちゃーんと元の場所に戻して二度と手を触れないんだよ

 

手に取ることが目的なんだ、ただどうなってるか見たかっただけなんだよ。

だって逆の立場ならそうするもん。

 

こんなに言葉を尽くしても、

うっすら涙ににじんだ瞳から、

俺への不信感がこぼれ落ちそうで、

かわいそう。

 

ああ、俺のズボンの股のとこに

必ず拳大の穴が開く呪いにでもかかれたら、

俺に寄ってきてくれるのは、

あんたしかいないのに。

 

美男美女でもブスブサでも

同じレベルにいるくらいなら運命の出会いだし、

平均値の辺りで適当に出会ってる俺たちも、

意外と運命の秘蔵っ子なんだせ?