最後のサヨナラ

冬の間に何日かだけある、

晴れ渡って雲のない空を見ながら、

心を解放してやれる緩やかな散歩に、

冷たい風が運んでくるのは

ノスタルジックで甘苦い邂逅だろう

 

そうだよベイビー、あんたと交わした

「最後のサヨナラは俺がする」って約束を、

今、思い出している

 

あんたはいつだって俺が一番で、自分のことより俺を優先した。

 

初めて会った時に惚れたのも、

何度も誘ってアプローチをかけたのも、

プロポーズしたのも全部俺だ。

 

なのに、いなくなるのはあんたからだなんて、

今日の空みたいに悲しい

 

俺の愛情をごっそり置いて、弱くて優しい笑顔でいなくなった、

 

俺が最後のサヨナラの約束を守れなかったあの日の空を、

俺は今でも覚えている、

 

悲しみで透き通ったあの青空を忘れることなんてない

 

ベイビー、あんたに出会う前、

飯を食べようとして箸が一本しかなかった時に、

俺は馬鹿馬鹿しくて笑ったんだ

 

でもあれから、一本しかない箸を見ると悲しくてやりきれない

 

そうだよ、馬鹿馬鹿しいだろ?

 

青空に恋人と箸だなんて、卑しい妄想が過ぎて、

きっと笑ってくれただろうな

 

あぁ、そうか、さっきあんたを空に思い出したとき、

俺は最後のサヨナラをしたんだな

 

 

最優秀ノミネート生涯の記憶

女の子はイタズラ子猫ちゃんタイプか、

人懐っこい子犬ちゃんタイプのどちらもイケる動物愛護延長派な俺と、

 

「猫派とか犬派とかバカらしい、私は人間だから」という、

人間味のないあんたが上手くいくなんて、

ルーブルに住み込みで働いてるモナリザも、

薄ら笑いで見守るだろうね

 

男の俺ですらオレンジ色のヘアゴム持ってんのに、

常備、黒のヘアゴムだから、色のない世界にいる人か、

ドラマで見た証人保護プログラムを受けていて、

足のつくものを残さないようにしている人だと思ってたんだ。

 

どっちにしろ、生きるだけで多大な犠牲を強いられてるんだなって、

憐れんでた。

 

そしてそのトレンドの最先端の尖ったとこで

引き裂いて捨てて欲しいパーカーは、

おばあちゃんのやつと思ってたから、

物を大切に使う人なんだって感心してたんだ。

 

ワールドウォー2って書いてあったし、配給された現物なんだ、

と思わせるほどの変人っぷりなんだ、

いい加減気づけよ。

 

その変人っぷりと、俺の変態っぷりが、上手く化合するなんて、

アイザックも落下していくリンゴみたいに赤面するだろう

 

それにしても5分前に世界が始まったなんて、

またどこで覚えてきたか知らないが、

昨日のクソ不味くて二人で大笑いしたラーメンを忘れたのか?

 

それすら記憶の改竄とか喚いてるけど、

あんな不味いラーメンの記憶作るなんて、

する訳ないじゃん!?

 

記憶作るやつがいるとして、それは神的な存在だから、

その神がまずあんなクソ不味いラーメン食べるんだよ?

 

神様にあんなクソ不味いラーメンが作れる訳ないし、

あのラーメンはどっちかといえば黒魔術的芸術だよ?

 

まあ、何が腹立つかったら、

 

俺の年間500日はある金欠の時に、

2500円もする「タイ風バニラ豚骨ラーメン」を頼むあんたと、

それが生涯の1コマになりそうな、

 

俺のノミネートセンスに、なんだけどね。

 

 

上手なジョークを言うジョーズ

「君って笑いのセンスあるよね」

 

ってイケメンから言われた時、ほんの一瞬あんたが見せた、

獲物を追い込んでも絶対に手を抜かずにヤりきる、

ジョーズみたいな目を見てから、

俺とあんたの距離は一気に縮まった

 

分かってる、あのイケメンは死ぬほどつまんない

 

会ったこともない人たちの座談会動画を見て浸ってるとこなんて、

目もあてられない

 

あの人は多分、地獄に落ちても

ファストパス持って観光気分で残酷な光景を回るから、

自我の悲鳴にも気づかない

 

そんな奴から「センスあるね」なんて、言葉の暴力最新版でしかない

 

でもベイビー、

あんたがガレットを食べているマーガレットを見て、

ちょっと笑ったのを俺は知ってるし、

クリスマスに焼き肉を食べに行った俺が、

どのロースにするか選択している時も、

ちょっと笑ってたのを知ってるんだ

 

そうだよ俺とあんたの笑いのセンスなんて、

底辺ピラミッド街にある蓋のないゴミ箱の底に溜まったピーナッツの殻以下だ

 

どっちかっていや、

あのイケメンの壊れた上から目線っぷりの方が、

まだ笑いのセンスがあるかもしれない

 

何より驚いてるのは、

やっと俺にトキメいてくれたベイビーが見せた、

琴線に触れたサインがあのジョーズみたいな目だなんて、

 

全く笑える上手なジョークだよ

 

 

ファーストキスはレモンの味

近所の綺麗なお姉さんから耳元で教えてもらう

「ファーストキスはレモンの味がするんだよ」

に勝てる上級魔法は、そんなにない

 

今でも思い出すだけで俺の頼りないライフは全快する

 

むっちゃ気になっている子からの

「今日、家に誰も居ないんだー」や

「絶対に何もしないなら、家に来てもいいよ」

という上級魔法も強力だが、

キスに乗っけ盛りしたファーストが、

威力をユニバーサルにしている

 

夏祭りで、傍にあるのに永遠に遠くて近い、

その手を繋ぎたいもどかしさや、

クリスマスパーティーの帰り道に、

個人的に用意したプレゼントを渡すタイミングは

待っていては来ないんだという、気持ちの延長線上に、

触れたら弾けて、

その後で猛烈な感情の盛り上がりと決壊が同時に発生する、

ファーストキスというリアルが充実する一大イベントがある

 

そのインパクトは魔法のように鮮烈で、

人間の記憶というドキュメンタリーで語っても

2000年以上掛かる代物だ

 

だから、覚えられない空前絶後

「レモン」という甘酸っぱさを適量入れて、

心の曖昧さを補完していく

 

大好きだったけど実らず終わった恋なら、

甘酸っぱい「レモン」の味だし、

 

今でも一緒にいて思い出すなら、

ほろ苦い「レモン」の味だろう

 

そんなことを思い出しながら飲んだサイダーは、

喉に青春を流し込み、爽やかな心の痛みを思い出させてくれた

 

そして良く考えたら俺のサイダーが減ってなくて、

一緒にサイダーを飲んでいた

ハゲ、デブ、キモオタのマイフレンドが赤面しているところを見ると、

充実したはずの俺のライフは、

思い出さなくても限りなくゼロに近い

 

 

古き良き勇者

テレビゲームでお馴染みの

「伝説の剣が抜けた跡まんじゅう」が売られていて、

俺のいやらしいことをするためにある手に相応しくない、

神々しい剣が握らされているとこを遠慮がちに考慮しても、

ここは夢の中だ。と思う。

 

だから魔王的な不審者が、

あの有名な「もしワシの味方になれば、世界の半分をやろう」を、

ピコピコ音で喋ってる

 

「いや、もう毎日カニが真っ直ぐ走るくらい忙しいし、

世界の半分貰っても地方自治的な、

ヤることヤらされるんだろうから、

自分らで手分けて頑張ってよ」って、

ゆとりゆとりした極論でサヨナラしようとしたんだ

 

そしたら魔王が

「毎日、毎日、同じことの繰り返しで満たされるのか?

お前が欲していたものは、そんな刺激のない、

くだらない生活なのか?」って、急に心の隙をつく、

不倫の発端地味た、変化球を投げるから

 

「あんたの言う刺激は戦いとか、勝敗とかで、有名になって

チヤホヤの出来立てホヤホヤみたいなやつだろ?

俺はそんなものより、誰かと飯を食って笑って、

今日も楽しかったって眠りたいんだ。

毎日毎日それを更新し続けたい。

魔の王のくせに、

中坊みたいな有名になりたい願望で釣ろうとするんだな」って、

実物はショボい感を出したんだ

 

そしたら魔王が

「私だって好きなことやってたい!

半分くらいめんどくさいの貰ってくれてもイイじゃん!」って、

ギャルギャルしい嘆きしたから、良く見たら、

出会った頃はこんな日が来るとは思わずにいた、

俺のベイビー、あんたじゃないか!?

 

まあ泣かないで、

とりあえずそこにある白雪姫用のリンゴでも半分こにして食べてから、

相談に乗るよって、雪崩式ピロートークに持ち込もうとしていたら、

まさかの夢で寝ようとしていたシーンから叩き起こされた。

 

もうそっちが異世界と思いたい見慣れたベッドで、

魔王よりも魔王魔王したあんたが「マオって誰!どこの女!」って、

寝起きの人に言うべきじゃない声量で怒鳴ってる

 

目覚めて怒号なんて、古き善き新妻スタイルに

「とりあえず落ち着いて話を聞いてくれたら、

俺の朝食の全財産である、デリバリーのピザを半分やろう」

 

という俺の提案は、俺を倒して更にピザは全部食べちまうであろう、

勇者ベイビーにはピコピコ音にしか聞こえないだろう。

 

ああ、どこからか「死んでしまうとは情けない」って叱咤の名言が聞こえる。

 

今日も刺激的な1日になりそうだ。

 

 

最後の気持ち

最後の最後で「あなたの気持ちが分からない」なんて、

同じ気持ちになるくらいだから、

本当は俺たち合ってたのかもな

 

どっちがどれだけ悪かったなんて批判してもさ、

批判される方も、する方だって、

それなりに考えがあったんだろうけど、

人の気持ちなんて分からないよ

 

もちろん人間よりも稼いでるのにその辺でトイレを済ませちまう

アイドル犬の気持ちも、

 

チャットのお布施だけで四次元まで手が届きそうな

二次元俳優の気持ちも、

誰にも分かるわけがない

 

神様が善だの悪だの、立ち位置にこだわるとこを考慮すれば、

神様にも気持ちってやつは手ニオエナイ

 

そんなありふれた核爆弾みたいな気持ちを持ち寄って、

一つにしながら歩めたと思えば、

この例えばなしみたいな恋愛も悪くはないなんて、

六等星の瞬き程度には良かったよ

 

ベイビー、何よりも一番悪いのは

 

気持ちが分からなくなったことより、

気持ちがどうでも良くなったことなんだ

 

 

深淵を覗く者

俺が小さい頃からの無邪気な尊敬を、

そして大きくなるにつれて自らの経験からくる畏怖を、

カードダスのように簡単に集める近所の兄ちゃんがいる。

 

もう俺がイイ年だから、兄ちゃんはもっとイイ年な訳だけど、

ハゲ、デブ、ワープアのロイヤル、ストレート、フラッシュと

年季も気合いも入っている

 

その風貌は、

可愛げのない値段のツボを売り付ける

消費者詐欺の可愛い姉ちゃんからは、

コケティッシュな獲物に映るらしく、

駅前という狩場ではしょっちゅうハンティングされる

 

兄ちゃんはそれを「逆ナン」って言い張るけど、

ご利益の無いツボについて説明する姉ちゃんの目をしっかり見据えて、

同じように説明を繰り返しながら悦に入って震え、

その何でも快感に変えようとする、

貪欲なヒトガタのモンスターからは、

これはやはり「狩り」なのだと、強く認識させられる。

 

憐れなのは狩ったと思って狩られていたツボ女だ、、

 

ちょっと外見が良くて自分が優位に立っていると思っている奴は、

自分に迫っている深淵の魔物に気が付かない

 

俺ならファーストインプレッションで、

禍々しい視線をバストから微動だにさせないオッサンは、

何の罪に問えるか分からないが即通報だ

 

確かに喫茶店代までツボ女に払わせるんだから、

「逆ナン」かもしれないが、

二度と同じツボ女を駅前で見かけることはなかったのだから、

これはやはり狩りという戦いなんだ

 

ああ、なぜ深淵を覗いたのか、

 

お前の欲望を満たすために、

お前自身を餌にして、深い深い闇を覗いたのか

 

結局、お前はその目で見た闇を二度と見たくはないようだが、

この世界には夜や日陰といった暗がりがそこかしこにあり、

それにすら怯えるお前の目には、しっかりあの闇が息づいている

 

ああ、なぜ深淵を覗いてしまったのか