2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

縮んだナイフ

忘却の海に沈めた記憶の口から、 思い出が小さな泡となって海面に浮かんでいき 初めて出会った日の衝撃や、絆を深めた折々の催しが、 ぶくぶくと弾けて消えた 忘れられた海底で全ての思い出を吐き出した記憶は、 縮まって固くなり触れても楽しくなく、 見る…

守りカラス  

もうカラスが鳴くから私は帰ろう だからカラスよ、お前も早くお帰り 私なら心配要らないよ 神に代わって作品を生み出す芸術家のように、 苦悩し悶えている私を、カラスの声が守り導こうとしている この愛情に恵まれた現状を受け入れられない、わたしにとって…

今日はたまたま  

今日はたまたま運が悪かっただけ 見知らぬ誰かが急に立ち止まって、 ぶつかったのも 前の車がノロノロとしていて、 待ち合わせに間に合わなかったのも たまたま運が悪かっただけ 急に立ち止まった人は大切な人の訃報に、 心を抉られる悲しみを堪えようとして…

泣いた積雪  

汚れていると思い込んでいた心の中に、 綺麗な雪が降った 全てを覆って白く綺麗に変えてしまい、 美しい心になれたのだと思った 大切な人と見るもの、聞くもの、感じるもの、 全てに感謝し、ただ素直に気持ちを伝えようとした だが、伝える言葉を持たないだ…

奇跡よりもありふれた微笑みを  

大人になって年を重ねると 頑張るということが分からなくなる 採用されない夢物語を作るため、 何人もの優秀な人たちが夜を徹して奮闘したり 日々、判断の目を養って高みを目指す人たちが無理難題に、 不可能という返答をさせてもらえない仕事がある この世…

ホタル小路  

あっちにあった消えそうな灯りがあなた こっちにあった消えそうな灯りがわたし あなたと私の小さな灯り 暗いところが好きだけど、誰かに見つけて欲しくて瞬いている、 あなたと私を優しく包んで一つの灯りにした あなたの灯りと私の灯りで 一つの灯りをつけ…

同じ命を生きる人

私には衝撃的な過去も、 莫大な遺産も、他人から格段に秀でているものもないが、 太陽が毎日必ず昇るように、常にあなたを愛している 代わり映えがなく抑揚もないが、 これだけは毎日きちんと続けることが出来る あなたが私にくれた物を並べるなら、まず思い…

鳴いたトライアングル

恋など無駄だと決めつけた逞しい気持ちが先走り過ぎ、 誰よりも攻めた速度で突っ込んだ季節の曲がり角で、 憧れるほどの朗らかな人にぶつかりそうになって何とか避けた先には、 見とれるほどの麗しい人が歩いていた その麗しい人にもぶつかりそうになって倒…

私は今でも  

夕暮れ前の帰り道を歩く時、いつもあなたが傍にいて、 くだらない話に付き合ってくれていた それは恐らく、二人の道を迷わないように守護し、 私を導いてくれていたのだろう 私は、今でも、 あなたの顔を鮮明に思い出すことが出来る あなたがいつもの得意気…

恋の季節

私はあなたを精巧なガラス細工のように大切に扱ってきた、 それはまるで自分の半身のように傷つけないように、 大切な運命のように守ってきた 数え切れない夜を共にして、あなたを自分のように錯覚し、 あなたが笑う声がすればそれが面白いのだと考えるよう…

揺れない心

曇り空の下で、何一つ秀でた物も持たない者が、 己の場所から遥か遠くに、輝いた光の降り注ぐ場所がある 光に恵まれない者から光の恩恵を受ける場所が見えるなんて滑稽過ぎるが、 ただ受けいれるしか出来ることはなかった だから、雪の降る冷たい朝に起きて…

続いていく命

右手の人差し指、これがお前だ。 ひどくありふれた矮小で醜い命だが、 確かに存在し、その裏腹に鮮明で美しくもある。 そして左手の人差し指、これが世界だ。 恐ろしく不安定で、消えそうな悲鳴の柱で支えられているが、 有名無名の希望に満ち溢れている。 …

竜になった日

世界中にありふれている土塊のような者に、 愛と希望を巻き付けて肉付けし 信念の鎧を身にまとわせて、 愚かしいほどの切れ味の剣を持たせる そうして始めた冒険は誰かを常に助け、 自己を顧みず気がつくと、 自分を含めた犠牲の山を登り続けていた これは流…

爛れた心

後悔の靴を脱ぎ捨てた過去が、 忘却の浜辺で畏怖や敬虔など持ち合わせない 艶かしいものたちと遊んで充たされている 初恋の麗しさを歌うように周囲に語り、 あなたの影さえ踏まないように慕いながらも、 叶わぬ距離に諦めを呼び込んで、 この長く続くはずの…

インタビュー

君に出会ってその強い瞳の中に自分の姿を見た時、 これは運命だと思った すぐに引かれあい、同じものを見て笑って輝いた時間を分かち合った、 そしてお互いが大切な毎日の一部と化していった 見るもの聞くもの食べるもの、全てが君を中心に考えられ、 君から…

続きの無い物語

温もりを感じながら眠りの国へ落ちていく、当たり前の日常に違和感を覚え、 記憶の葉脈や未来の想像図をたどり、実物の自己という存在に問い掛けている 答えはない、あるのは暗闇だけ 意味はない、あるのは無情だけ 自分を中心に据えてこの世界を眺めても、 …

夜の焦げ跡

あなたを夢の中で最も愛することが出来るのは私だ あなたに懸命に尽くし、歓喜に乱れ、身も心も乗っ取って、 正体を失くすほど果てさせることが私になら出来る あなたは私を褒め称え、大切に傍に置き、 数々の宝石のような思いを口に移してくれるだろう 濃密…

本能が交わる時

目の前に現れた完璧な死を前にして、ネズミはもっと早く知るべきだった 己の驕りがもたらした、生存にしがみつく本能の薄まりを 嗅いだことのない極めて危険な臭いに、知識ゆえの好奇心を昂らせ、 逃げ道も用意せずに足を運んでしまった なぜ未知の探検が上…

冬の首飾り

並木は次の希望を芽に託し、葉をすでに旅立たせながら、 葉脈に乗せて見果てぬ空へとまだ届かぬ思いを伸ばし、 背景に幾つもの空を背負っている 数多くもの芽に宿った希望は同じ日に生まれ、 同じ日に散る幸せなものもあるだろう 揺れながら落ちる葉と、風の…

人間の塊

どこにでもある潰れそうな酒場の、薄汚れたネオンの光が僅かに届くその隅の方に、 人間の妬みや嫉みの垢の塊が潜んでいる 塊は長年、人を骨まで食らって来た癖に、 光に当たればあっさりと消え失せるから、そこでしか生きられない 他人の言葉でしか喜怒哀楽…

唇は聞いている

最後に絞り出した言葉が、私からあなたへの気持ちではなく、 あなたのことを讃えていたことに感謝している、 せめてもの餞別に、二人が好きだった歌を口ずさもう いつも私は、あなたの心地好い感謝の言葉を唇で聞いていたから、 別れを飾ることなく、 あなた…

風が夜から吹いてくる

不意に風があなたに似た臭いを運んで来ると、 あなたに身も心もすり寄っている体の芯が嘆き乱れ、 私はあなたに逆らえる気がしない 図らずも豊かな肢体を惜しみ無く見せつける、 そのあなたを見る視界に直接匂いかけてくるその色香に、 私は逆らえる気がしな…

純愛

いつしか失くした最愛の人を、胸の傷痕が覚えている、 深く雑な傷口は放ったままに時の流れに任せ、 覆うように閉めた心の蓋のせいで蒸れてしまい、 見るたびジュクジュクと腐敗が進み、 鼻をもぎ取るほどの異臭に この世に生きたことまで戻しそうになる 嗅…

祝福の花

あなたがどうしてもと言うから、 私は他人に開くことのない自分のドアを開け、 あなたを長いこと待っていた 夏の夜には風と共にやって来る、恐ろしい虫と格闘し 冬には凍りつきそうな冷気に舌まで震わせながら、 それでもあなたの帰りを待ち続けた だが幾度…

共に過ごした日々へ

我々の力は常に一つではなかった 倒れそうな時は支えあい踏ん張りながらも、 共に拳を振り上げて戦いを潜り抜けて来た 我々の言葉は常に多くの夢を語り合った くじけては互いを励まし、前に進めば褒め称え会う、 無数の言葉で繋がっていた しかし、我々の心…

疑惑の音

私が後ろにいることを感じているあなたの背後から忍び寄り、 乳房の下から手を滑り込ませてその心臓を掴み、 ぎゅうぎゅうと絞って、 あなたの芯に染み込んでいる私の量を確かめたくなる 誰の目からも逃れた不道徳に、良識は吐息となって空間を埋め、 人前で…

さようなら異国の友よ

あなたのその大きな手に師事を受け、技術の鍛練に励み、 作った物を他者の喜びとして糧にする毎日を過ごせたら、 あての無い長い旅からは解放されるだろう しかし、あなた自身も自己との統合という長い旅を続けていて、 私と同じく背負った荷を投げ出すこと…

ささやく使従

一人で落ち着くはずの心地好くこしらえた寝床でも、 毎夜ささやき問いかける さ迷って熱い体内のとても小さな箱に、 数えきれない欲望を詰め込もうとする 眠りと食事と異性を欲して、 惰性のままの睡眠に、血の滴るような食べ物や、美しい滑らかな体を 瞼の…

あなたは私の心に降った雪

新鮮な息吹きに溢れた陽光が、私の心の真っ白な雪に、 もう次の季節に移ることを促す 最後までこの身を包み、一つに溶けて忘却の小川へ流れ込もうとしていた 汚れのない真っ白な雪は、未来を誓った相手に別れも告げぬまま 華やかな太陽と明るい世界に旅立っ…

「夜明け前にこぼれたコーヒー」  

長い夜がもうすぐ明けようとしている 何度、その愛してやまない顔を近づけ、熱く語らい、 夜を超えただろう 二人で買ったカーテンが謝るように薄闇に映えている 今さら問い詰めるつもりなんてない、 争うくらいなら馴染み深いその声をもう少し聞いていたい、…