2019-01-01から1年間の記事一覧

「暮れ往く太陽」

山の向こうや海の果てに沈む時、橙色の優しい光が、町や丘の斜面を照らして、疲れた厳しい気持ちも丸くしてくれる 林や森の緑をオレンジや真っ赤に染めていき、各家々にも微笑んでいるような印象を与え、あぁ、誰もがあの家に帰れば楽しい団欒が待っていると…

「旅立ちの花」

その花は旅立った人を見送る決意が出来た時に、美しい花を咲かせるという 父が旅立って一か月後にその花が咲いた 家族で団欒を過ごしながら、我が子の食事を見守る目に、厳しいが頼りがいがある父の思いが重なった時、父の面影を持った大きくて真っ直ぐな美…

「迷子のジャスミン」

花を咲かせて実を結び、我々、種族の後継をこの世界に送り出した この次はいったい何をするのだろう? 来年も花を咲かせて実を結び一連の流れを作業のように繰り返すのか? もう十分に使命は果たしたのに なぜ私はあの鳥のように、大空を飛び回れないのだ? …

「こっちにおいでマリー」

夢で逢えたら夢見を恨み、夢で会えなければ夢でも会いたいと願う まぼろしに会えても会えなくても愛しさは募るばかり 風に流れる綺麗な髪と透き通る胸元、何より優しく柔らかな笑顔、 さっきの銃撃の時、ともに走り回った草原の匂いがした 元気でいるだろう…

「雨に濡れた言葉」

激しい雨が窓を叩き、雨音が静寂に代わって部屋を覆ってしまっても あの日の君の声だけは今でも聞こえている 雨に濡れた君の香りが鼻腔を貫き、君を慕う心が暴れ回るのを近くで見ていた どうにもならない気持ちは知らない振りをするしかない、それは互いに同…

「痩せた人形」

竜になろうと決めた時に大切なものまで飲み込んで、 会いたい人や祝う日も無くし、もう何も思い出すことが出来ない 皆の憧れを背負っている背中も、勝利の象徴のような両腕も、 信頼を一心に集めている私という存在の中心に居るのは、 あの日、強くなりたい…

「聖人チャレンジ」

ガサガサと痩せた腕で深い穴を掘って、入って丸まって、 獣のように産んでいる、嘆き、絶望、奇怪な害虫、 あまねく禍の種を産み落として育てることなく投げ出している 与えることが最大の暴力、数の正義で攻め潰す、 過去も未来も柔らかにベトベトに覆って…

「運命を探す人」

砂を運んで水を吸わせて、その砂を別のところに運んで水を絞る 毎日、毎年、同じことを繰り返し続けて、野生のものならとっくに狂ってしまうほど、狂気に馴染んでしまっている 偉大な人物にも成れた、有名な絵描きや裕福な実業家にも成れた、なのになぜこの…

「地獄から地獄まで」

海も山も建物もずっと遠くまで焼け爛れていて感動すら覚えている 看板が無くてもここが地獄だとすぐに分かるし、 誰ともすれ違うことが無いからもう戻ることは出来ないのだろう ここに来るまでの分は生きている間に全部聖書で払っているからお釣りは無いし、…

「病気になったサナギ」

毒と恥のスパンコールを着込んで ドラッグを満タンにしたエロス18禁のトレーラーを アクセルべた踏みでぶっ飛ばし『何かおもしろいことないかなぁ』とか言う友達スレッスレに最強ブレーキでビタ止まりさせる 毎日の始まりがこうであれば良いのにと思う 冷…

「ヘテロプテラ婦人」

そのお方はそれはそれは美しく、周りの空気までもが煌びやかで、 もう見ているだけでメマイがしてしまいそうなお方です 美しさに驚いて咳き込むほどです みんな周りを見渡して夢ではないかと確認します でも、やっぱり見とれてそのままお姿を見送るだけなの…

「信仰の庭」

いつからここに有るのだろうか?という問いかけは、 いつまでここに有るのだろうか?と同じように意味をなさない 流れる時間が乾き、顔を出した石畳から思い出がそこら中に溢れる、 とんがって・丸まって・ぶつかって・散らばって、追憶を折り合わせて 筋に…

「手折られた向日葵」

そこにあった輝きは有名だった 無くなった後にはただ真っ暗な虚無が広がっていて、それがまた良い 私はお前の美しさを知っているが、お前が私を知ることはもう無いだろう 私がお前の美しさに尊敬の念を抱き、日々称賛していたことなど、 おまえにはどうでも…

「大好きなお母さん」

友達ができたよ、おかあさん だから、もう寂しくないよ、心配しないでね 体も強くなったよ、お母さん 病気にはなってないよ、大丈夫だよ 好きな人が出来たよ、おかあさん お母さんもこんな気持ちだったのかな、 いつか話すから聞いて欲しいよ 大好きなお母さ…

「雲のすき間」

その向こうがどうしても見たくて手を伸ばした 辿り着きたくて、そこに行きたくて、喉が焼けるほど走った あぁ、腕よ、心よ、もう一度、奮ってくれ この瞳がつかまえて離さない涙の飛行機雲を そして孤独な空に開放してくれ 原始に織り込まれた螺旋模様のイナ…

「砂漠の夢」

鉛のような疲労の羽が覆い被さり、薄ら青いこめかみから知恵が漏れ、 ポツリ、ポツリ、と過去からの応答が聞こえる 死に際してやっとだが命というものを感じている、 何でもない命が砂となって体からこぼれていく この砂も私のように夢見るのだろうか? 大義…

「恋獄(れんごく)」

君が人生で出会う全ての人が君の前に行列を作っているとして 僕の前にも後ろにも僕より素敵な人がたくさんいると思う だけど僕には君しかいなかった 夏祭りには夏で作った白いワンピース 夜空を光で払っても色彩の暴力で夜を際立たせる花火、 照らされた横顔…

「打骨(だこつ)」

君を初めて見た時、心の骨を叩く音がした 追い求め続ける誰かに似ていたから、すぐに声を掛けて、 どうでも良い会話が無くなりそうになる度に、 内心は必死になってその笑顔の端っこに摑まった 毎日が浮ついて君の気を引くことばかり考えた 情を深めていくほ…

「白百合からの便り」

商店街の賑やかな店で、あの日のぼやけた輪郭に重なるあなたを見つけた 人への接し方から相変わらず心根の優しさが伺え、誰からも好かれる笑顔は宝石のように磨きがかかっていた あなたと同じところに暮らして毎日を過ごし、同じ未来を見ながらも時にはケン…

「理解の泉」

薔薇で、椿で、紫陽花で、柔和の権化のように影に怯えることもなく ほころび揺れてまた落ちる、優しい爆発が心を絞り取ろうとする あふれ出る笑顔の中の世界観に自分を写し、情緒が不規則に倒れていく時、 自分の根っこが脈打っているのを、確かに、強烈に感…

「海底に沈む海」

お前の海は死んだ、と神様が言う あぁそうですか、では愛想が無いし、 ええ!何ですって!なんて嘘臭過ぎる もう死んでしまったならどうしようも無いし、 神様が言うならそうなんだろう そうなると、ここは無言が一番良い お前の海は死んだのだ!とまた神様…

「代価」

心の真価ともいうべき宝石のように透明に輝いている熱意が、 もう、呆けたように限り無い深淵を眺めている 絡み付いては広がっていく乾いた砂浜で、 自分と同じ顔をした虚無ですら今となっては敵か味方か分かる術は無いのだ 大切な記憶の曲がり道や、やむを…

「底なし沼に飽きている」

怠惰な煙でむせ返る無価値な部屋で、 生活の泥沼に顔面崩壊を起こしながら頬杖をついている 不眠症の苛立ちを磨り潰したコーヒーを飲むと、 胃の中で青ざめていた自尊心のカエルが周囲からの圧力に潰されて、 全てを知らない世界を笑いながら沈んでいく、 そ…

「クラブ スズメバチ」

ストリッパーと喧騒の夜を混ぜ込んだ劇薬を一気に飲み干せば 営業開始の罵声が響く 泥のようにまとわり付く音楽は直接カラダで聞くもので、 ここに入った時から耳は職務を放棄したようだ 注文は指先で数字を伝えると、 下水よりはマシといった飲んで酔えるも…

「美しいマリア像 顔面凶器」

あぁ何と豊満な肉体を開き、上目使いで「愛をカラダで証明」することの 尊さを説く土偶のようなマリア様 かぶりついて奪おうとする耳に心地良いはずの歌が、 細くしなやかな指でその吐息の口元を包み込まれ恥辱の聖歌が 聞こえない 肉付きの良い太ももに気を…

「都市の充足」

絶妙な距離感を持った木漏れ日が部屋を染め、 ゆらゆらしているカーテンが心に強烈な淡い刻印を彫り込んでいく 痛い、もう、とうに忘れたのに、痛い 幻想なのに見覚えのある影は? 聞いたことがないのに答えそうになる声は? 触れてもいないのに包まれるよう…

「千年舞台」

もうすぐ幕が上がる、 じっとして待ち続けている膝が ストライプの光をばらまきながら捩れて歌う よほど飽きているのか観客はもう息をしていない 忌の際のずっと以前から始まった陽気な歌に合わせて、 死ぬためか生きるために有ったか分からない彼ら彼女らの…

「雪を見るためだけに生まれた獣」

情念、柔肌、掘りごたつ、その手にしたものは何だった? 捨てたはずの情念の先端に、厳しい冷気が生への執着を運んでくる その手際の良さには美しさすら覚える しっとりとした雪のような柔肌に、その皮下に、 熱を孕んだ柔肌に付けられた獣の足跡を見た真夜…