「痩せた人形」

竜になろうと決めた時に大切なものまで飲み込んで、

会いたい人や祝う日も無くし、もう何も思い出すことが出来ない

 

皆の憧れを背負っている背中も、勝利の象徴のような両腕も、

信頼を一心に集めている私という存在の中心に居るのは、

あの日、強くなりたいと願った痩せた棒っきれのような男だ

 

皆のためと奔走し英雄に相応しい多くの名声を得た、

しかし表面は豊かになっていったが、

私の芯は肥えることなく棒っきれのままだった

 

なぜ我が子が一度だけ遊びたいと愚図った時に、

ワガママだと切り捨て相手にしなかったのか

なぜ妻が頼ってきた時にくだらない会議を優先して

時間を割かなかったのか

家族からは頼られない英雄をどんな気持ちで見ていたのか、

あぁ、謝ることが出来てもどうしようもない

 

恐らく私は次の戦いで負ける

今まで数々の相手を打ち負かしてきた歴戦の勘がそう言っている

ボロのように負けて戦場から締め出され、

家庭からは元々いなかったものにされるだろう

私の最大の過ちは、夢を見たことでも夢を叶えたことでもなく、

夢から覚めてしまったことだ

 

さあ、この世界で最強の棒っきれの最後をみせてやろう

偽物の散り際に美学など不要だ、しつこく足掻いて一人になっても

降伏などするものか

目を焼かれ、足を砕かれ、頭をもがれて腕だけになっても、

前を向いて剣を振るってやろう