光より早い男

 

ベイビー、俺はあんたより何だって早かった。

 

飯を食うのも、眠るのも、仕事を辞めるのだって断然早かった。

 

冬の街角で迷子になった子猫ちゃんのようなその瞳を、

最初に明るくしたのも俺なんだ。

 

あんたが過去を見る時に、

移り行く木漏れ日すら呪う勢いで険しくなる瞳が、

いつか孫を見守る優しい婆さんのように慈しみで溢れるように、

俺はあんたの過去を作っていこうと決めたんだ。

 

一番最初にあんたを幸せにしたのは俺だ。

そうやって、ずっと、ずっと記憶の一番を走り続けるんだ。

 

そして最後に俺は「やっぱり俺の方が早かった」って笑って言って、

大切なあんたの過去になりたいんだ。