縮んだナイフ

忘却の海に沈めた記憶の口から、

思い出が小さな泡となって海面に浮かんでいき

初めて出会った日の衝撃や、絆を深めた折々の催しが、

ぶくぶくと弾けて消えた

 

忘れられた海底で全ての思い出を吐き出した記憶は、

縮まって固くなり触れても楽しくなく、

見る影のないナイフのような形になった

だから滅多に触る気など起きない

 

だが、夢で確かにあなたに触られて、

情けないほどまた胸が泡立ち、

大切にすると誓ったあなたからまた触られる前に、

深い深い欲望の原点のような体温で覆い被さろうと、

あなたとの思い出を探す

 

忘却の海に手を入れて潜り、

息の続く限り探す

 

海底で縮んで尖ってナイフのような幾つもの思い出が手に刺さり、

自らの血で海が真っ赤に染まって、

そのせいでまた見えなくなり手に刺さる痛みしか見つけられない

 

やっと見つけた、あなたとの思い出を掴み引っ張り揚げようとしているが、

あれが海面でこちらが引き摺り込まれているのではないだろうか?

 

あの日から溺れ続けるあなたとの思い出と、

今溺れている儚い気持ちは、

どちらが死に瀕しているのだろう