守りカラス  

 

もうカラスが鳴くから私は帰ろう

だからカラスよ、お前も早くお帰り

私なら心配要らないよ

 

神に代わって作品を生み出す芸術家のように、

苦悩し悶えている私を、カラスの声が守り導こうとしている

 

この愛情に恵まれた現状を受け入れられない、わたしにとって、

私と暮らしている美しい人への持って行き場所の無い謝罪に疲れていた

 

砂漠の心を持つ私には、あなたの慈悲が雨となるが、

吸い込むだけで返すものが無い

 

あなたから貰えるだけ貰って、その胸で安らぎの音を聞いて、

大きなイビキをかきワガママに眠りこけている

 

そして、ふとに我に還り、

毎度毎度の自己嫌悪の小刀でマゾヒズムに浸れる程度に、

自らを傷つける

 

だが、茶番は終わりだ、片付けよう

もう告げなければならない

あなたを愛することが出来ないと

 

そして、意を決した日の夕暮れ

あなたとの暖かな家に戻り

夕食の支度を楽しそうにしているあなたに、

今までの感謝を震える声で伝え、別れを告げようとした瞬間に、

 

カラスが鳴いた

 

もう、崩れてしまいそうなあなたにもう一度、

別れを告げようとした瞬間、

 

またカラスが鳴いた

 

そうか、そういうことなんだ

これは、そういうことなんだ

 

だから、私は別れを告げずに、

あなたに近づき目を真っ直ぐに見て、

体でも直接、感謝を伝えた

 

泣き崩れているあなたからは、

美人特有の華やかな香りと美味しそうな料理の匂いがして、

外では帰る人たちの足音や、話し声が聞こえていた

 

あなたを愛すると決心した日はありふれていた

 

その日からカラスの鳴き声はしなくなり、カラスを見ることもなくなった

 

私を守ってくれていたカラスは用を終え、次の仕事に旅立ったのだろう

 

ありふれている毎日に、別れがあり、誓いがあり、

誰かを守ることがある

 

そうして誰かの大切な人となり、

平穏な日々を過ごしながらも、

決して忘れることの無い存在になっていく

 

カラスが鳴くから、私は帰ろう

だからカラスよ、お前も早くお帰り

私ならもう、心配要らないよ