唇は聞いている

 

 最後に絞り出した言葉が、私からあなたへの気持ちではなく、

あなたのことを讃えていたことに感謝している、

 

せめてもの餞別に、二人が好きだった歌を口ずさもう

 

いつも私は、あなたの心地好い感謝の言葉を唇で聞いていたから、

別れを飾ることなく、

あなたへの気持ちを全て譲ることが出来て、本当に良かった

 

私よりもその朗らかな美しさを知っている人の元に、

旅立っていくあなたを引き留める気があってはならないが、

叶うなら私が、あなたの愛の偉大さを世界に知らしめたかった

 

しかし恋愛の季節は過ぎたのだ、

もっとあなたにふさわしい人に、この大役を委ねよう

 

口から口へ恋の季節を語り、

口から口で愛の言葉を聞いていたあの日々が、

眩ゆくて目を閉じ、そこにあなたを探そうと目を開けても、

強烈な光が瞳に残り続け、

視界の真ん中であなたの影が胸像のように居座っている

 

今でも時折、二人が好きだった歌を口ずさむのは、

あなたの唇に聞いて欲しいからだろう、

そしていつまでも私の唇は、あなたの歌を聞いている