夏が過ぎ、
吹き抜ける風が少しだけ冷たくなった夕暮れ時の刹那に、
遠い記憶の隅にある焚き火の匂いが薫ると、
あなたと私の亡霊を見る
仲良く手を繋ぎ、
あの日のついに言えなかった愛の言葉で結ばれて、
荒ぶるほど睦まじいその光景に心底腹から揺さぶられる
強い光を宿した瞳でまた名前を呼ばれたら恋慕に酔うだろう
大好きだったあの優しい声が聞こえたら、
恥ずかしげもなく泣き潰れるかもししれない
あなたの慈悲に感謝しながら交わす愛情を、
2人の生活に丁寧に毎日編み込んで、
長い年月を美しい網目のように暮らせたら、
今でもその老いた美しさを眺めて幸せに包まれているだろう
そうだ、一瞬で麗しい追憶の果てに落ちて行ったが、
これは幻想なのだ、
あれは毎年甦る願望であり、
この目がついつい見ようとする不死の過去として君臨している
もう、あなたと私の未来は繋がることは永遠になく、
あなたも望んではいないだろう、
私も死に戻り続ける過去の中では息が続かない
だが、あなたが私を忘れることがないように、
私もあなたを忘れることはない
この無限に繰り返す甘い悔恨の螺旋で、
過去の女王である最愛の人に、
あの日ついに言ってしまった言葉でもう一度終止符を打つことなく、
私はまた、あなたと私の亡霊の横を、
通り過ぎていく