俺は強い、彼は呟いた
どんな戦乱にあっても凛として戦い、血の海の中を突破してきた
俺は強いんだ、彼は吐き捨てた
敗色濃い戦闘にあっても、鬼神のごとき活躍で皆を率いて勝利に導いた
いつもの強烈な熱気を帯びた彼の目が、この雪原で戦いの幕を切り落とす
雪が紅に染まり赤い泥沼で戦士が乱れ戦う
我が敵となれば血族も恋人も斬り捨てて道を歩んできた
いつだってこうやって進んできた
あぁ、寝食を共にして戦い、腹を割って夢を語った友は元気だろうか?
故郷に戻り慎ましく暮らすと言っていたが変わりないだろうか?
懐かしい声が聞こえた気がしたが気の迷いだろう
ここから先、立ち塞がる者は全て打ち倒す
そうだ断じてお前は友ではない、俺の友は夢を追ってここを去ったのだ
だから友に似た敵よ、だからせめて全力で屠ってやろう
しかしなぜ両手が震えているのだ、何も恐れることはない
なぜ俺は泣いているのだ、いつものことではないか
なぜこの時代なのだ友よ
違った時代に生きたなら、もっと良い結末もあったろうに
もっと朗らかな付き合いが出来たろうに
だが仕方無い
俺たちは戦いの中でしか自分を見出せなかった
結束することが出来なかった
せめて、せめてここから先は振り返ることなく戦いの中を我が生涯としよう
そうして最後を迎えた時に、
この手の中に、友情が残っていれば良し
残っていなければ、それもまた良しとしよう