「始祖」  

 

生まれる前の暗闇からゆっくりと姿を現し、

何物にも属していないその視線に震えて息を止めていた優しい仮面は、

いつしか心さえも覆ってしまった、

 

そうして欲望の重力が強くなればなるほど、

そこに生き甲斐を見出だして高く飛び、

誰もが憧れる真っ白な夢のキャンバスに、

血塗れの手で所有権を塗りたくる

 

あぁ、興奮している感性が本能へ遡りながら、

危険だと連呼しては警報ごと溶岩のように押し寄せている、

しかし聞こえて来るのは甘い甘い歌声のような誘惑だ

 

その誘惑さえも独りよがりに誘惑しながら身悶えて、

安心するために海に行けば、憩いに溢れた山のせせらぎを恋しく思い、

郷愁を求めて山に行けば安らぐ波音を恋しく思う

そうだ、お前は底無しだ

 

正義と凶悪の心臓に膨大なパイプラインを引き、

共に倒れないよう歴史のバランスを保ちながら、

劇場型の犯罪と、勧善懲悪を1人で演じるお前は底無しだ、

 

それでいいんだろうし、

それがいいんだろう

 

そして何度も生まれては壊れて始まる、

この世界の数少ない主人公なんだろう