燃える雪

いつかそこに行きたいと思っていた。

 

暗くて冷たく心地よい雲の中で

小さな雪は何も持たずに思っていた

その大らかな抱擁を受け取りたいと

そこに着いた時の歓喜の雨に打たれたいと

 

出来ることなら、この冬最初に

一番乗りでそこに駆け下りて

出会ったことのない恋人のように包み込まれたい

 

失敗した先にある固まった死も

成功に約束された滑らかな勝利も

小さな雪には何もない

 

溢れる希望に満ち

己が辿り着けない行く末など夢にも思わず

ただただ力を蓄え

天地創造の日から生まれた

信念に殉じて

その時を動かずに待っていた

 

そして、時が動き始めた瞬間に飛び立ち

雷鳴の暗殺を潜り抜け

暴風の略奪を交わし

夢にまで見た炎を見つけて

壊れてしまう速度で一直線に降っていく

 

甘美・耽美・審美を従えて、

旅人や労働者の魂の疲労で凍えた体を温めている炎の上に

雪が降る

 

生命に一時の復活を与えている甘美な炎の風景と

一心不乱に自己完結の冒険を求めて死に至る耽美が交わり

そこは一遍の完璧な情景となっている

 

この場面には生きるモノの問いと答えが有り

真実をさらしている

 

その雪は後から何度も炎に降るが

全てが溶けて残らず消えてしまい

何も残さない

 

辞世の句も愛情を綴った遺言もない

自分が行きたかった場所を目がけてただひたすらに進み

思いが叶ったなら潔く消えていく