「毒の無いダイヤモンド」

全方位が敵ということを押し出した目つきで

噛み付くように常に真っ直ぐ歩いていた、道を譲るなどあり得ない

誰が来ても敵ではないことは不遜な態度が雄弁に物語っている

 

周りにいるのは敵か手下

敵なら蹴落とすか陥れて、二度と刃向わないように教育する

故に、嫌われ妬まれ侮蔑の権化だが

それらを受け入れてなお、凍り付くような輝きを放っていた

 

得意の愛憎を混ぜ込んだ復讐や、誰かの心臓を停止させる告白で

一般貴族たちの冷やかな嘲りの道をもろ手を上げて突き進み

優美や柔和とは無縁の怪物だったのに

急に血迷って愛だの恋だのと安っぽい、どこにでもある喜劇に出演してしまった

 

あぁ凍てついていた雰囲気は丸くなり

そこら辺の風景に似合って周りとも距離が縮まり

無言の圧力による押し潰しが失せていた

そして生涯不要であった談笑を受け入れていた

 

皆が畏れ、嫌い、妬んだ、ダイヤモンドよ

周囲よりも高付加価値の思春期と長いこと争っていたので

他者を受け入れて許そうとする円熟期が急激に始まってしまったのだろう

 

なぜ壊れたままで思春期を続けなかったのだ、

醜い、いまさら余りにも醜いのだ

ふつうに戻るくらいなら元から腐って落ちれば良かったのに

 

そうか、思春期という時代を拗らされるのも才能なのだ

そして、それを許され輝き続けるのも才能なのだ

さらに、それを疲れずに歩き続けるのも才能なのだろう

 

お前の輝きは人間離れした毒気があってこそのもの

毒を抜かれたお前はダイヤとはいえ

誰も欲しがらないし憧れない

無論、価値も石ころに等しい

 

圧倒的な輝きを奪われる恐怖からは解放されたが

羨望と嫉妬という偉大な双子の宝石も失ってしまった

 

そうして忘れ去られる前にもう、別に

次のダイヤモンドが生まれ、

お前の毒々しい輝きは歴史にしまわれ

次の輪廻が回り始めている