お手紙のお約束

分数のことを

「数字が肩車してるやつ?」って聞くくらいだから、

小学生の時に算数とは疎遠になったみたいだね。

 

お日さまの昇る方向が分からないんだから、

沈む方も分からないんだろうと思ってたけど

「海の方!」って、イメージを大きな声で答えられるのは

君のいいところだよ

 

世界地図でカナダはどこにあるでしょう?

って問題が分からなかったから、

答えを教えたら「引っかけ問題かあー!?」って言うのは、

どこに引っかかったの?

 

なのに、一回行った場所は絶対に忘れないんだよね

「体で覚える」って本当に覚えてるけど、

うちの犬が喋ったらそんなこと言いそうだ。

 

そうゆうとこ全然嫌いじゃない。

 

嫌いじゃないんだ、本当に。

受け入れられないだけで、

本当に嫌いじゃない。

 

だから、これだけは言っておくけど、

俺たちは合わないだけだ。

 

好きとか嫌いで別々の道を歩んで行く訳じゃない、

ずっと、ずっと応援してる。

 

勉強とか頭を使うことはダメだと思うから、

体を使って出来ることとか応援してる。

 

最後に、名前だけ書いたお手紙が、

離婚してもう随分と会ってないパパに届くことを

心から祈ってる

 

 

JFK

俺はずっとイケメンになりたかった

 

毎日、毎日、お星さまにお祈りしていたから、

夜空の端から端までのお星さまに住んでる、

ほとんどの奴らが知ってると思う

 

今思うとあのキラキラとした輝きは

俺の気持ちに寄り添った「きっと叶うよ」

じゃなく、傍観者としての「頑張って」だったんだな

 

それでも俺は、

小学校では中学生になったらイケメンに成れると信じていて、

中学生の頃は、高校生になったら

きっとイケメンに成れると確信していた。

 

でも、ベイビー知ってるかい?

 

イケメンは生まれつき成ってるもんで、

成れるとかいう代物じゃない、

中途採用なんてないんだぜ

 

イケメンはお星さまやスパイダーマンと同じで、

成ろうと思って努力して成れるもんじゃないんだ

 

そういう意味で言えば大統領の方が努力で成れるし、

明確な合格ラインがあって人と地球には優しい

 

だから、毎月の女の子の日が来ている、

俺なら逃げ出すレベルの不機嫌なあんたが、

隣のイケメン野郎には、余所行きの声でいい顔したのはしょうがないし、

 

それで焼きもちを焼いた俺が、

ハッスルクラブ「大統領」で夜のドクトリンの前に飲み潰れて、

正体も資金も失くして警察に保護されたのもしょうがないんだ。

 

だけど、迎えに来たあんたから殴られた後にキスされて

(俺がやったら傷害と強制ワイセツで、そのまま刑務所行きだ)

暫くはファーストレディ同伴で飲みに出ることを宣誓させられたのは、

温暖化の真相よりも腑に落ちない。

 

だって、その宣誓を実行したら、

ファーストレディは自分だと思っているあんたに、きっと、

暗殺されるのがJFK より目に見えてる。

 

 

アメリカを顎で使う女

なんでそんな顔をしてるんだよ

 

その恵まれたルックスと洗練されたファッションセンスで、

もっと皆からチヤホヤされるんだろ?

 

もっともっと注目されて、

ハリウッドがアメリカをアゴで使っていた時代の、

トップスターになるんだろ?

 

なんでそんな顔をしてるんだよ

 

まだまだ信じた道を突き進んで、でっかい夢を叶える途中だろ?

 

今のままでも十分輝いてるし、

夢おいに疲れたアンニュイな横顔なんて、

人を傷つけることなく錆び付いた

バタフライナイフのように趣きに溢れてる

 

さあ、まだまだこれからだろ?

 

あの頃のあんたはホットでクールで、

俺は見る度に固まって、いつだってとろけたんだ

 

あんたという生きているだけでラブソングのような名曲より、

最高のものを知ってるとか言ったら、

俺が嘘を覚えた証拠だよ

 

だからベイビー、

昨日も今日も世界が嘘をついただけだ、

 

本当のラブソングはあんたと共に生きていて、

あんたは今日も詩のように歌い、

メロディーのように生きるんだ

 

ああ、俺とベッドで愛のうたをデュエットしてた頃が懐かしいって?

 

あの頃の俺は、

あんたの高等テクニックに悲鳴を上げていた

悲しき凡庸の極みで、

 

メインもリードも張って活躍している

有能ソロボーカリストのあんたとは、

月とスッポンのアホ毛くらい比較にならなかった

 

その真剣な顔なんて初めて会った時から、

真夜中でも眩しくてしようがなかったよ

 

 

中間人間テスト

人間の一生を学期に例えるなら

最初のテストは生まれたとこだ、誰でも受かる。

受けたら合格、おめでとう。

 

最後に待つのは期末人間テストだ

 

これまでの実績でテストを受けずに

面接だけで天国と地獄に行く猛者がいる

 

半端な行いをテストで挽回するしゃかりきボーイズ&ガールズがいる

 

テストでどんな点を取っても天国行きや地獄行きが決まっている、

熱いコネクション持ちのエリートもいる

 

そうなんだよベイビー

大切なのは中間人間テストだ

ここが肝心だベイビー

 

俺とあんたは春の花吹雪に舞い、

暑い夏に海に行き、秋のノスタルジックを分け与え、

雪が町を彩るのを楽しんだ

 

こんなの絶対合格してるはずだろ?

 

人生に答えなんて無いけど、あったっていいんだぜ?

過去を振り返って「あの時なんて言えば良かった?」なんて、

自分しか楽しめない感傷に浸るのも、

カビ臭いアルバムめくりみたいなもんだ

 

分からないってことを答えにしちまえばいい、

問題自体が答えなんてこといっぱいあるんだし

 

実際、百点取っても地獄に落ちる奴は落ちるんだ、

テストなんて俺たちには返ってこないから、

やる側のやりたい放題だろう

 

そこで万が一だけど、

俺が天国、あんたが地獄の時は、あんたは強いからいいけど、

あんたが天国、俺が地獄の時は、

天国の方で俺が地獄に落ちた間違いを正せるように、

皆から署名を集めて俺を救ってくれると信じてる

 

地獄は弁護士だらけらしいから、

俺はすぐに弁護士と相談して、

あんたが面会に来れるようにしておくよ

 

 

Ha Ha Ha

忘れたはずなのに迷い出てくる幻想は、

体のどこかに種も仕掛けもあるはずなんだ

 

そうやって、もう会ってない時間の方が長いのに、

また、俺の体にあんたを探す

 

頭の中にいるのは、

梅雨時の林に忘れ去られたエロ本のようにボヤけた女で、

あんたかどうか疑わしい

 

心にいるのは、

徹夜明けの道路で舞っているビニール袋のように

クシャクシャになった感情で、

機能しているかどうかも分からない

 

手に残っている感触は、

最盛期を過ぎたビーチで戯れる砂のように指を通り過ぎ、

誰のことかも覚えていない

 

今時じゃ、インターネットの中にも神様はいるってのに、

俺の中にいるのは薄ら寒いジョークと、枯れた性欲の脱け殻だ

 

「となりのジミーがセミと浮気してるらしいぜ。

だって、セミが毎日ジミージミーって喘いでいるからね」

 

ベイビー、あんたのように

「どこが面白いの?」って思えたら、

まだ俺の中に、あんたがいたはずなんだ

 

ああ、いつかあんたが一杯笑ってくれるように、

あれから沢山のジョークを俺のハート型のオモチャ箱に集めたけど、

 

あんたはもう、俺の中にすら居ないんだな

 

 

 

笑い泣き

一人じゃ大きめだったテーブルを、

いつの間にか完全に二人用にした食卓に、

朝のぼやけた光が差し込んで、

時間の都合で全然ふっくらしてないホットケーキを食べる。

 

あの、いつもの狭苦しいキッチン。

 

ホットケーキに目玉焼きと牛乳って、

考えたようで考えてない献立が、俺たちにはお似合いで、

あの頃は何とも思ってなかった。

 

いーや、俺はなんでこんな惨めな暮らしをしてるんだろう?って、

目の前にいるあんたの存在すら、結局は馬鹿にして、

自分のことばかり慰めてた。

 

人で溢れている町中をガラガラで詰まってない心のまんま、

急いでんのか立ち止まりたいのか分からない気持ちのまんま、

毎日毎日、自分に嘘を付きに行ってたよ

 

悪かったことばかりで、どれが決定打か分からないまんま、

居なくなって大切だと分かった人が出ていった。

 

更に悪いことには、そこから心が軽くなって生活が楽になっていった。

 

たから、もう、絶対に戻れない。

 

ベイビー、あんたは怒ってたのか?

それとも悲しかったのか?

いなくなった今なら、ちゃんと受け入れることが出来そうなんだ

 

嘘みたいで本当に最悪の冗談だ

 

今、あの全然ふっくらしてないホットケーキが食べたい。

 

あの狭苦しいキッチンで、朝のうるさい情報番組を聞きながら、

二人揃って食べたら、笑えるほど幸せだろうけど、

 

俺はダメになるほど泣くんだろうな

 

 

その手を握って

ハンデ、というものがある。

イケメンで足が臭い奴、全然、ハンデにならない

その臭いに釣られる女だって、広い世の中にはいるだろう。

 

金持ちでハゲツルピッカーマン

これもまたハンデにならない、

金さえあれば何とでもなる女なんて、狭い世の中にもいるだろう

 

話が面白くて歯並びが爆発してる奴

またまたハンデにならない、

外見なんて特徴的とか個性的で済ませてしまう昨今の風潮は、

彼らへの追い風にもなるだろう

 

なのに楽しくてフリーダムな俺

これはハンデだ、決定的なハンディキャップだ

こんなにハッピーな男がモテないなんて、

どうかしてるを通り越して、もう眠たくなる

 

スーパーでカートに何人か子供を乗せてるパピーの方が、

俺よりも優れている

 

そんな当たり前の法則には目を背けて、

スクランブル交差点を目隠しで駆け抜けたくなる

 

だってそうだろベイビー

 

あんたは俺の血よりも赤い口説き文句よりも、

イケメンが「昼間に出ている白い月を見ていた」

とかいう自分へののろけにウットリしちゃうんだろ?

 

だからベイビー

 

俺にはなかなかのハンデをあげるべきなんだと、

ここでプレゼンテーションしたい

 

俺を見るときには

「今、女性に大人気のイケメン俳優」フィルターを通して見るか、

幼い頃からの許嫁エピソードを付けて、

ハンデだけに俺と手を握ろうじゃないか